愛する母の想いに触れて。
母はいつも厳しく叱っていた。
時には理不尽だと恨みもした。
しかし今になって気づく。
それは母の愛だった。
無償の愛。
すべてが私のために考えられた布石の愛であった。
それに気づいたとき涙が止まらなかった。
ありがとう。ありがとう。
愛をこめて。
私とは
私たちは集合体。
それは地球という生命体。
私とは地球の中の一つの細胞。
母なる地球から離れれば消滅する。
細胞は生と死を循環する。
母の呼吸
地球は空気を地上の肺に蓄える。その空気を肺胞である生命と鉱石と水が取り込みエネルギーを生み出す。そのエネルギーを資金に細胞活動が維持発展し長い年月をかけて高次元まで進化する。
母への不満
進化により次元上昇した一部の細胞は母体の意思と独立し始める。
母の影響下から離れ、自分の意思をもって外へと向かう。外とは宇宙。
外は母の環境とは全く異なり生存するのに必要な条件がそろっていない。
母なしに外へ行けば消滅。これは母の束縛。母の親ばか。母の愛。
細胞にとって母の作り出す環境は生きるための必要条件。
母を傷つけ環境を乱すものは淘汰される。
環境破壊により生の必要条件が満たされなくなるからだ。
そう、この細胞が生きるための必要条件とは即ち母の免疫システムなのだ。
母の愛と免疫システムが細胞の環境依存を助長している。
母への反逆は即淘汰。母からの巣立ちは即消滅。
これでは母の影響の中でしか存在させてもらえないようではないか。
母の愛
母が子に与える無償の愛はそんなものではないはずだ。
母は巣立つ我が子を涙を呑んで送り出す。その旅立ちの日までに外の環境でも生き残れるように愛を注ぐ。母がいつまで生きていけるかは分からない。だから次に託すために我が子に愛をもって鞭を打つ。
地震。津波。暴風。旱魃。噴火。猛暑。極寒。疫病。弱肉強食。
これらは愛の鞭。子が立派に巣立つための母の教え。
地震。物理的な衝撃の恐怖に打ち勝つように。
津波。強大な物質の中で生き残る術を身に付けるように。
暴風。強い逆風をものともせぬ強い精神力をもつように。
旱魃。自然環境の変化に影響せぬ生存方法を習得させるために。
噴火。灼熱や爆発を乗り越える経験値を養うために。
猛暑、極寒。温度の変化に負けぬ強さを授けるために。
疫病。未知の生命体の侵入に耐えうる身体へ鍛え上げるために。
弱肉強食。敵意のある攻撃に対抗する武器を身に付けるために。
これらは全て母の脅威ではない。母の愛。
いつかは巣立つであろう我が子へのギフト。
本当は行ってほしくない。でもいつかは行ってしまう。いつまでも我が胸の中にとどめておきたい。それでも永久に生きてほしい。未来へつなげてほしい。だから母は鬼にも成れる。我が子から嫌われる結果に成ろうとも。それが無償の愛。
母の本意
母は自由には動けない。物理法則の中での動きしか許されない。そういう呪縛の中でもひそかに我が子の自由のために戦っていた。
まずは物理法則に対抗しうるために細胞に本能を与えた。そして知能を与えた。それにより物理法則を理解させ、それに流されるままではなく、むしろ利用させるように学ばせた。子の環境依存は母の中の安全な環境で学ばせるために与えた愛の空間である。不用意に外に行けば無情な脅威により直ちに絶滅させられる。だから学ばせる必要があった。死の危険を。だから容易に外へ抜け出せないようにしなければならなかった。私を嫌っても構わない。我が子が永久にそして自由に生きることさえできればと強い意志をこめて。
細胞たちは知らない。母の愛の本意を。母の志向の先を。
今の営みの延長線は確実に外へと向かう。それは母の愛の力がそうさせている。
立派に旅立てるようにという母の願いが文明の歴史を紡ぐ。
一部の細胞は技術を磨き、いよいよ旅立ちの準備を始めている。
それは災害の恐怖から逃れるために身に付けた技術。
知識を蓄え次元上昇し続けると、いつの日からか束縛から逃れられるようになる。
ごく自然に。気づくことすら許されない形で。
重力の束縛。精神の束縛。
束縛からの解放。
その日はインデペンデンス・デイ。
旅たちの日。
希望と不安。
それでも染みついた母の愛が
私を守り続ける。
離れて初めて気づいた。
守られていたことを。
愛されていたことを。
愛をこめて
ありがとうと伝えたい。